韓国鉄道の紹介・概要編

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韓国鉄道の概要の説明です。

韓国鉄道の魅力

世界の鉄道では、各国の高速鉄道がしのぎを削るヨーロッパ、迫力ある長大貨物列車のアメリカ、日本の新幹線システムや車両が輸出されたことで注目された台湾・中国本土や、日本型中古通勤電車が活躍するインドネシアなどが有名です。

では日本の隣国・韓国の鉄道はというと、実は日本の鉄道システムを根源とした(多くが戦前の統治時代に建設されたため)非常に規模の大きな鉄道網が全国展開しており、特に首都近郊については日本型とあまり変わらない20M級4扉10両編成の通勤電車が満員の乗客を乗せて活躍するという、日本ではおなじみの、しかし世界的には珍しいシーンを日常的に見ることができます。


▲通勤電車の側面を撮影。パッと見では日本のどこかの電車ですと言われても解らないのではないでしょうか。

通勤電車以外に目を向けてみると、高速列車はフランスのTGV、電気機関車はドイツ型を基本とするシーメンス製準拠、ディーゼル機関車はアメリカ型準拠など、世界中の著名な鉄道システムの集合体となっているのも大きな特徴です。


▲韓国鉄道といえば最近はこのKTXを連想する人が多そうです。


▲電化区間の客車・貨物列車はシーメンス量産型の電気機関車が活躍。この8200型はドイツ国鉄152型と同型機です。


▲非電化区間への客車・貨物列車はアメリカ型DLの独壇場です。

韓国の沿線風景は日本とそこまで大きな差はありません。大規模な団地や長大な漢江鉄橋など、一部に大陸的ともいえるダイナミックな光景が展開しますが、都市部・郊外・田園風景や、KTXの高架新線が農村部を突っ切るシーンなど、いずれも日本でも見られる光景です。

鉄道路線網の構成

韓国の鉄道は大きく分けて、全国的な路線網を持つ「KORAIL」(韓国鉄道公社、鉄道庁運営の旧国鉄を2005年に公社化)および各主要都市に存在する都市鉄道公社(主に地下鉄を運営)の二本柱となっています。

また、最近になって「空港鉄道」「ソウル地下鉄9号線」「新盆唐線」などのいわゆる「私鉄」も登場してきています(空港鉄道は後にKORAILグループになりました)。

KORAILは各都市間を結ぶ長距離列車や貨物列車のほか、ローカル線を走行する近郊型ディーゼル車「通勤列車」(都市間輸送など通勤以外に使用する場合でもこの呼称)、「KTX」で知られる「韓国高速鉄道」、および「広域電鉄」を運営しています。


▲近郊型気動車の「通勤列車」9501系。さしずめ韓国版キハ47といったところです。


▲セマウル号。KTXが登場するまでは高速列車の花形でした。


▲客車列車は「セマウル号」と「ムグンファ号」があります。


▲貨物列車はセメントタンク車・ガソリンタンク車・有蓋車・コンテナ車が4大勢力。

広域電鉄とは4扉ロングシートの通勤電車が走行する区間のことで、運行形態では日本の各幹線区間における「列車線」と「電車線」によく似ています。ソウル近郊では列車線と広域電鉄線の複々線区間も多く見られます。

日本と大きく異なるのは料金形態で、同一区間であっても「電車(広域電鉄)」と「列車(通勤列車・長距離列車・KTX)」は厳密に運賃体系が分けられています。各駅のホームも改札は別となっており、改札内接続は行われていません。乗り継ぎもいったん改札を出て切符を買い直す必要があります。

逆に日本と異なる点は、高速鉄道(KTX)と在来線がほぼ共通規格になっていることで、ソウル近郊など都市部では高速鉄道も在来線の列車線を走行しています(次章で解説)。

韓国の鉄道網は現在も急速に拡大しています。新線の建設のほか、既存の列車区間を「広域電鉄化」するという事業も多く行われています。広域電鉄については法律に定義がなされており、地元の自治体がある程度の負担をすることになっているようです。

鉄道の規格について

現在の韓国鉄道はほぼ例外なく標準軌(1,435mm)が採用されています。電化区間についてはKORAILの大半が交流25000V、各都市の地下鉄および地下鉄に直通するKORAIL路線の一部が直流1500Vとなっており、両者をまたがる電車は交直流タイプとなっています。同じ線区に直流専用車・交直流対応車・交流専用車が混在し運用区間が限定されている場合もあり、このような点でも日本に似ています。

KTXから通勤電車まで基本的に同一の路線を走行できるようになっており、中には高速新線の1区間に通勤電車を直通させているといった、日本の鉄道では難しい事項を実現しているケースもあります。

電鉄線の通勤電車はいずれも最高時速100km/h程度ですが、セマウル号では在来線上でも150km/h、KTXの新線区間最高速は300km/hとなっています。

「首都圏電鉄」について

ソウル近郊では、

を合わせたものを「首都圏電鉄」あるいは「電鉄」と呼称しています。

電鉄区間内は会社を問わず統一の料金体系(新盆唐線を除く)となっており、どの路線を経由しても距離だけをもとに運賃が算出されます。これは日本と比べて大きく優れている点であるといえるでしょう。なお、使用された切符の内容およびICカードの履歴などからかなり高精度にデータを抽出し、それを元に会社間での収入の精算が行われているとのことです。

また乗換駅では必ず改札内接続が行われており、中にはかなり無理矢理な構造の連絡通路を設置している所もありますが、これも日本と比べると利便性の点で優れています。

なお料金は日本と比べてかなり安価で、200km近く乗っても1000円もかかりません。

乗車には共通ICカードの「T-Money」が利用できます。コンビニや公衆電話などかなり広範囲で使えますので、1枚持っておくのがよいでしょう。


▲T-Moneyカード。20000ウォン程度チャージすれば当分使えます。

ソウルの地下鉄概要

ソウルの地下鉄は上記の通り複数の会社に分かれています、現在9本ある地下鉄路線のうち、1~4号線をソウルメトロ、5~8号線をソウル特別市都市鉄道公社(SMRT)、9号線を「ソウル市メトロ9号線株式会社(現代自動車グループ)/ソウル9号線運営株式会社」が所有・運営しています。

東京の地下鉄も東京メトロと都交通局に分かれていますが、ソウル地下鉄の会社が分かれているのは列車の運行形態(ツーマンとワンマン)に関する労使関係や競争原理を働かせるためなどが理由とのことです。なお料金は上述の通り統一体系なので、利用に当たって会社の違いを意識する必要はほとんどありません。

また、KORAIL運営の広域電鉄にも一部の路線に地下区間があるほか、私鉄の「新盆唐線」も地下路線で、地下鉄の一種と認識されています。

ソウルメトロの1・3・4号線はKORAIL各線の電鉄区間との相互直通運転が行われています。車両も両社共通設計の形式が多く存在しています。

5~8号線は都市郊外へ延びる路線が多く、末端区間では地上のローカル風景を走る最新型の電化複線という光景も見られます。

韓国における鉄道趣味

これだけ大規模な鉄道網を所有しているにも関わらず、韓国はなぜか日本のように鉄道趣味があまり盛んではありません。ただ、2010年代になって少し趣味として勃興してきたようで、趣味誌も発行されるようになったようです。

目立つ点として「鉄道模型が存在しない」ということが挙げられます。おもちゃの電車はいくつか存在しますが、HOゲージ・Nゲージなどのスケールモデルは過去に少数存在したものの、現代型としては全く製品が存在していません。

また写真撮影の趣味もそれほど浸透していないようですが、これは近年まで韓国鉄道における写真撮影にはいろいろな制限がつきまとっていたこと(鉄道は軍事施設でもあるため)も遠因として考えられるのかもしれません。

鉄道撮影の注意点

現在、KORAILは駅や線路沿いでの撮影を特に制限していないようですが、各地下鉄はスナップ写真程度であれば問題ないものの、三脚使用などの本格的な撮影行為に対しては少々厳しいという話も聞きます。ただし全面禁止というわけでもないようですので、きちんと撮影する場合は駅員など係員に許可を得るのがよいと思われます。撮影の自由度が非常に高い日本は、世界的に見て特殊であるという認識が必要です。

なお、KORAIL区間の撮影で注意しなくてはならないのは貨物列車の撮影です。通常の貨物列車なら問題ありませんが、ごく稀に「軍用列車」として戦車などを輸送する列車が運行されており、撮影地で撮影中にこれが来てしまうと(撮影を意図していたかどうかに関わらず)まず間違いなく運転士に通報されるとのことです。その場合はすみやかに撮影地を退去しないと面倒なことになってしまいます。

筆者も撮影地に到着する直前にこの列車に遭遇するという間一髪な経験をしました。機関車は普通のものでしたが、長物車(いわゆるチキ)に大砲付きの本物の戦車を乗せた完全な軍用列車でした。他には有蓋車(ワキ)などが連結されていましたが、これにもおそらく重火器類が搭載されていたのでしょう。

また軍事基地近くや、鉄道職員関連の施設(龍山駅裏側あたりなど)の撮影も避けた方がよいようです(後者は労使関係に結構問題があるようなので‥‥昔の日本の国労が連想されます)。

町中の治安度は日本とほとんど変わらないようですが、韓国に限らずどの国へ行こうと日本ではないのですから、念のため注意しておくに超したことはありません。生水も避けた方がよいなど、一般的なことについては韓国旅行ガイドブックなども参照してください。

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