イソプロピルアルコールによる塗装剥がし

完成品改造、塗装失敗品や旧作の復旧などに役立つテクニック。

超音波洗浄機での洗浄と組み合わせることでも威力を発揮しそう。

概要

などといった場合、従来はプラモデル塗料の薄め液(Mr.Colorうすめ液など)が利用されてきたが、プラキットで使われているスチロール樹脂ならよいものの、完成品のABS樹脂と相性が悪く、ひびが入るなどの問題があった。

近年ではIPA(イソプロピルアルコール)が主に利用されている。これは薄め液よりは時間がかかるものの、樹脂や接着剤への影響が「ほぼ」無い(注記後述)のがメリットである。

KH Train Factoryでは、時間の関係で複数の車体を同時に作業するケースが多いため、すべての塗装剥がしについてIPAを採用している。ここでは、主に車体(完成品・キット問わず)の塗装剥がしについて紹介する。

なお、万一の車体破損、健康への被害等については一切の責を負うことはできないので、自己責任において実行すること。

IPAの入手

すでに他サイト等でも紹介されているが、IPAを最も簡単に入手できるのは「自動車ガソリン用水抜き剤」である。自動車用品店や百貨店、ホームセンター、100円ショップ等で購入することができる(大森駅前のダイソーには無かった‥‥)。

購入の際に注意することは、裏面の成分表示を参照し、「IPAが99%以上」のものを選ぶということである。表記は「IPA」「イソプロピルアルコール」「イソプロパノール」等があるがどれも同じものである。

「ディーゼルエンジン用」など特殊用途のものは、IPAが70%程度で他の成分が多く含まれているものやIPAが全く用いられていないものがあり、それらを用いると効果が無いばかりか樹脂を痛めてしまう危険性があるので注意したい。目安としては、複数の種類がある場合は、一番安いものがIPA99%以上という場合が多い。

価格であるが、200ml入りのものが100円〜200円程度である。6両程度を塗装剥がしするのであれば、これを5本程度購入しておくとよい。20両以上のような大量作業の場合は、かなりの本数が必要となる。

なお、薬局で純粋なIPAを購入することもできるが、手間がかかる上、純度を保証するために多少高額になる。

IPAという物質の注意点

IPAはアルコール臭を伴う無色透明の液体で、揮発性・引火性が非常に高いため、シンナーと同等あるいはそれ以上の管理への注意が必要である。揮発ガスは人体に有毒であるため、換気扇の使用やガスマスクの着用が望ましい。

皮膚に悪影響を及ぼすので、作業の際はゴム手袋などを着用したい。なお、手術用の薄い手袋を試してみたのだが、安物だったのか材質のせいなのかIPAが浸透してしまってあまり使えるものではなかった。台所用の厚手のゴム手袋が好ましいようだ。

揮発ガスへの対策として、当方ではエアブラシ塗装に使う塗装ブース(換気扇付き)を利用している。この塗装ブースはエアブラシ塗装や塗膜剥がしの他にレジンキャスト作業時にも利用できるので便利である。寒い時期は換気扇を動かした台所で作業しているが、IPAの飛散や暖房からの引火に注意が必要。

容器の入手と車体の漬け込み

IPAでの塗装剥がしは、

という手順になる。

漬け込む時間は数時間〜半日程度から最長で数週間に渡ることもあるので、密閉できるポリパックが適している。

これは料理用品店などで購入できる、弁当や漬け物などをパックするのに使われるもの(台所用タッパー)が最適であろう。

大きさにも注意が必要で、なるべく面積が広く(多くの車体を漬け込む場合)、高さが車体の三倍程度確保できるものが望ましい。

なお、TOMIXやKATOの単品車両ケースも試してみたのだが、車体が完全に浸かるほどIPAを入れると少し動かしただけでも非常に漏れやすく、作業効率を考えるとおすすめできるものではなかった。

このようにパックに車体を入れ、IPAを注ぎ込む。車体が完全に浸かり、さらにその上に5mm程度の余裕がある、というのが分量の目安である。

両数が多い場合は車体を重ねて入れておくこともできる(それだけの高さの余裕のあるパックを購入する必要がある)が、車体同士が触れ合っている部分はIPAが浸透せず剥がれにくくなるため、屋根付きの車両を重ねて入れるのはあまりおすすめできない。

漬け込む時間は対象によってバラバラである。メーカーどころか形式、色ごとに異なっているので一概に言うことはできない。早いものは30分でキレイに剥がれてしまうものもあるが、1ヶ月漬け込んでもなかなか落ちてくれないものもある。

また寒い時期には非常に剥離性能が落ちる。湯煎やホットカーペットの上に置くなどして30〜35℃程度を保つようにすると、2時間もすればかなりの車種で剥離が完了するが、加熱については気化ガスの圧力や引火に対して充分な注意を行うこと。45℃を超える熱源を加熱に使用しないようにするなどの対策を採るべきだろう。

塗膜の除去

塗料の種類などによって時間はバラバラだが、しばらくすると塗膜が浮き上がって凸凹になってくる。この状態になったら、歯ブラシを用いてこすってみる。使用する歯ブラシは、毛を半分程度の長さに切ることで弾力性を増し、かつジャギーを生じさせておくと便利だった。

なお、塗膜の除去の際には、車体裏側や窓、ドア部分などのスミにも注意したい。半端に残っていると、乾いた後での除去が面倒である。

素材によっては窓桟などの細い部分の強度が落ちている場合があるので、こする際にには慎重に作業を行ったほうがよい。

水洗い

塗膜の除去が完了したら、そのまま水洗いをする。

なお、水に触れた時点で、残っている塗膜が固着してしまう。再度ブラシでこすってもなかなか落ちなくなってしまうので、必ずIPAに浸かっている時点で細かいところまで先に落としておくこと。

再塗装

乾燥したら、サンドペーパーなどで残ったゴミなどを除去して表面を仕上げておく。

あとは中性洗剤による油分の除去などの基本的な作業を行えば再塗装が可能となる。

残ったIPAの再利用

剥がれた塗膜は、IPAの中に沈殿する。見た感じでは、IPAに塗料の溶剤成分が混ざることはないようである(長時間使うと液が着色するため完全に溶けないわけではないようだ)。というわけで、残ったIPAは濾過することで再利用することが可能である。

濾過には、天ぷら油などの濾過に使う用具(漏斗とキッチンペーパー)を購入して利用するのがよいだろう。

キッチンペーパーはすぐ目詰まりしてしまうので、当方は上にティッシュペーパーを噛ませ、そちらを頻繁に交換する手法を使ってみた。ティッシュペーパーから発生するホコリ分はキッチンペーパー通過時に除去される。

揮発性と濾過材への浸透性の高さゆえ、元の分量の70%ほどしかリサイクルはできないようだ。

再利用したIPAの能力向上についての考察

これは当方の経験則だが、何度も利用したIPAは塗装を剥がす能力が向上するようだ。化学的なことは不明だが、塗料の溶剤成分がIPAに溶け出して効果を高めているのではないかとも思える。

これはWIN115系(新長野色)を新品のIPAに4日漬けた状態である(浸かっている液が無色透明な点に注目)。ブラシでこすっても白色部分などに落ちにくい部分があった。

そしてこちらは何度も使い込んだIPA(液が着色している点に注目)に同じ種類の車両を同じ日数漬け込んだものである。塗膜はすでにボロボロで、ブラシで少しこするだけで完全に剥がれてしまった。

車体への影響について

ABS樹脂

ABS樹脂車体(市販完成品のほとんどが該当)への影響は多少は存在しているが、近年のTOMIX・KATO・MicroACE・WIN・GREENMAX製品を当方が「短期間の漬け込みで」塗装剥がししている範囲では問題は生じていない。

短期間なら、と記述したのは、KATO製品(白ボディ:201系や183系など)を4週間以上漬け込んだところ「全体的に縮む」という結果になったことがあるためである。このとき使用していたのは使い古しのIPAであったため、溶け出した他の成分が悪影響を与えていた可能性があるので、必ず発生するかどうかは不明であるが、長期間の漬け込みが必要な場合は同種素材の不要品などであらかじめ実験したほうがよい。

スチロール樹脂

GREENMAXやリトルジャパンなど灰色プラスチックの未塗装キットがこれ。特に問題はないが、スチロール樹脂のみ剥がす場合はIPAを使わなくてもMr.Colorうすめ液(シンナー)で充分である。

車体で使われるケースはほぼ無いだろうが、透明樹脂については白濁が発生するという報告もある。TOMYのバスコレクションやBトレインショーティーの前面パーツは大丈夫だったらしい。

金属

エッチングプライマーまで剥がすことができる(金属には影響は無い)ので、金属キットの再塗装にも利用できる。もっとも、金属キット組立作品であればABS樹脂を使うケースはあまりない(GREENMAXキットとの合成が多い)であろうから、その場合はMr.Color薄め液を使ってしまったほうが早いかもしれない。

全金属キットを半田付けで組んだものなら、さらに強力なラッカー薄め液で剥がしてしまうこともできる(瞬間接着剤を使用していると接着部分が割れる場合があるので、全半田付け以外には推奨できない)。

レジン

レジン車体への影響についてはまだ塗装剥がしの対象となる車両が発生しておらず、調査していないが、問題があるという報告は今のところ見かけない。

素材の性質を考えれば、こちらも長期間の漬け込みは避けた方がよいと思われる。

作業例の紹介

マイクロエース103系岡山色を1時間程度漬け込んだ状態。この塗装は非常に剥がれやすい系統だったようで、1時間もかからないという短時間で、少しブラシでこするだけで簡単に除去できてしまった。

WINの115系新潟色(4日漬け込み)。赤帯だけ剥がれにくいという妙な状態になった。

TOMIXの415系旧塗装を、塗装を剥がさずに上塗りして作った九州色(4日漬け込み)。上塗りした塗料だけが最初に剥がれ、下地はまだ強固に固着している。上塗りを剥がしてさらに数日漬け込むことで下の赤色も剥がすことができるようになる。

かなり古い作品のレストア中、TAVASAのクモユニ143キット。エッチングプライマーまできれいに除去できる。

こちらも10年以上前の作品、GREENMAXクモヤ143キット(旧製品)。ここまで古いと塗膜も強固で、新品IPAに4日漬け込んだ程度では写真のようになかなか剥がれなかった。使い古しのIPAに入れてみたところすぐに剥がれてしまった。

WIN113・115系、上記のクモヤ143やクモユニ143がきれいに除去できた。

正面から見てみる。IPAと関係ないが、WIN113系のテールライトの巨大さがよくわかる(115系から改善されたが)。

まどの氏提供の、Bトレインショーティーの前面パーツとTOMIXバスコレクションを塗装剥がしした結果である。

Bトレインショーティーは問題なく塗装が落ち、透明樹脂にも悪影響は出ていない。

バスコレクションは、デカールは落ちるものの塗装が落ちる様子が全く無いらしい。

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